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ちくわのあな
【GS美神】
作:赤蛇様
主な登場人物:横島×シロ×タマモ
ちくわよ、ちくわ。
どうしてお穴が空いているのでござろうか。
「シロ! なに遊んでんの!」
む。 十二時の方向に女狐発見。
「バカやってないで、さっさと手伝いなさいよ」
いやいやいや、手伝いたいのは山々なれど。
里の掟で決められておっての。
武士たるもの七歳にして男子厨房に入らず、でござる。
「どっからどう見てもアンタは女でしょーが!」
……だって、先生の家の台所は狭くて寒いのでござるもん。
「アンタねぇ」
「まあまあ、タマモ。確かにここに三人も並んでたんじゃ、狭くて仕事になりゃしないさ」
「う~~、横島がそう言うならそれでもいいけど……」
さすが先生! 可愛い弟子のことをよくわかってらっしゃる。
「んーー、それはどうでもいいんだけどな……」
なになに? 何でござる?
「ちくわを片手に―――って、お前は立ち飲み屋のおっちゃんか?」
いったい何事かと思えば。
だいたい、それを言うなら”角打ち”でござろ?
「だから、どっからそういう事を覚えてくるんだっつーの」
むふふ。
それは秘密でござる。
「はぁ―――まあ、いいや。ほれ」
ん?
大根?
「ちくわ食いながらでもいいから、そいつをおろしとけ」
了解でござる。
で、どのくらい?
「全部だ」
全部!
この大根、まるまる二本でござるか?
「鍋に入れるんだから、少し多いぐらいじゃないと足らんぞ。まあ、多少荒くてもかまわんが」
うう~~ 弟子使いの荒い師匠でござる……
「何を言ってやがるんだか……まったく」
「あ、シロ。薬味にもするから、もみじおろしも作っといて」
「皮もちゃんと剥いとけよ」
しかたないでござるのう。
タマモ、包丁を取ってくだされ。
「包丁は今、私が使ってんの! アンタは自分のがあるんだから、それを使いなさいよ」
なんと!
拙者の霊波刀を包丁代わりにせよとな?
由緒正しき人狼族に対する侮辱にござる!
「昨日、その出刃包丁で魚をおろしていたのはドコの誰よ?」
はっはっは。
なんのことやら、拙者にゃとんと。
じゃ、さっさとおろしてしまうでござるか。
あ。
タマモ、タマモ。
「何よ今度は。うるさいわね」
ちくわ、もう一皿追加。マヨネーズもつけて。
「出来たぞーー!」
やっと出来たでござるか。
もう待ち過ぎてお腹ぺこぺこでござるよ。
「お前、あれだけつまみ食いしといて、まだ食うか?」
あんなもんじゃ、腹の足しにもならないでござるよ。
「……いつか太るぞ、お前」
れでぃーに向かって失礼な言いぐさでござるな。
いくら師匠とはいえ、許せないでござる。
「怒るなら、鍋じゃなくて俺のほうを見て言えっての。全然説得力がないぞ?」
ああもう。
そんなことより、早く食べるでござるよ。
「はいはい」
おおー!
ちくわに蒲鉾にはんぺんにさつま揚げ―――練り物ばっかりでござるな?
「ん? ああ、近所にな、”ちくわ物産”っていう店が出来ててさ、開店記念で安かったからつい、な」
それにしたって、これは―――
「いいじゃないの。たまにはこういうのもヘルシーでいいわよ」
そう言いながら、お揚げはしっかりと入っているではござらぬか!
「だって、隣の豆腐屋も安かったんだもん……」
不公平でござるーー!!
「わ、私は妖狐なんだからしかたないじゃない! 文句言うなら食べなきゃいいでしょ」
「まあまあ、タマモ。シロも今度来るときには好きなもの食わしてやるからさ。今日は我慢してくれ」
うう~~ 先生がそう言うなら……
「横島はシロに甘過ぎよ。いつまでも子供じゃないんだから……」
「そう言うなって。よし、じゃ、あらためて食べるとしようか」
いただくでござる。
ほふ ほふ ほふ。
あ、熱い。
あんまり熱いんで、思わず涙が出てきてしまったでござるよ……
ちくわよ、ちくわ。
どうしてお穴が空いているのでござろうか。
何かがなくなってしまったからでござろうか。
赤蛇様より頂きました!
赤蛇様はちくわぶと同じく椎名作品系二次創作で活動しておられます。
人物の濃厚な内面描写を得意とする御方ですが、このちくわ三部作はとても爽やかです(笑)
ちくわ物産は社長が自分を切り売りする練り物屋……ではありませんw
ちょっとヤキモチ焼きのシロが可愛らしく、ラストの一言にハッとさせられますね。
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