美味しく料理を作る理由

【絶対可憐チルドレン】
作:アルト様

 主な登場人物:宿木明×犬神初音



 太陽が沈みかかり、空が暗くなってきた。

 その時俺は今日の献立を主婦ならぬ主夫の勤めと考えていた。

 すると突然、居間でテレビを見ていた初音が急にこちらに話しかけてくる。

「明〜、おでん作って」

「なんだよいきなり」

 まぁ晩飯何にしようか悩んでたから別に良かったのだが。

「さっきテレビでやってたのよ。寒い冬にはおでんが美味いって」

 初音の言葉にテレビに目をやるとそこでは、いつも良くわからない表現で料理の感想を言う男が映ってる。

 こんな着飾った言葉で料理人は喜ばねえっての。

 この男はその辺をまったくわかっていない。

 ……しかし。

「なるほど、鍋特集か……」

「うん、私ちくわぶ食べたいな」

「ちくわぶっておまえ……おでんといったら大根とかはんぺんじゃねぇか?」

 ちくわぶってけっこう脇役だろう……

 ちくわぶは小麦粉と水でできるお手軽材料なんだけどなぁ。

「私はちくわぶが良いの!」

「へいへい……しかしそれだと材料が無いな」

 おでんの材料なんて買ってないぞ。

 ちくわぶなんておでんのためにあるような食材だし。

 いや、ここは市販品じゃなくて自分で作るか?

 そのほうが安上がりで大量に作れるしな。

「じゃあ、買い物行こ! 早く、早く!」

「おい! 引っ張るなよ! ああ、寒いからマフラーぐらいして行け」

 ぐいぐい俺を引っ張る初音をなだめて首にマフラーを巻いてやる。

「もう、それぐらい自分でやる!」

「そういって風邪をひいたのはどこのどいつだ?」

 つい一年前に俺の忠告を受け入れず布団の中で熱出していたこいつの姿は今だ記憶に新しい。

 じたばたもがく初音を無視して取れないように後ろでマフラーを巻いてやる。

 しかし何でこいつはすでに顔が赤くなってんだ?

「よし、いいぞ。行こうぜ」

「明の馬鹿……」

 なんでだ。







 外に出ると、冷たい冬の風が体を刺してくる。

 今年は暖冬だとは言うがやっぱり寒いもんは寒い。

 そんな中も初音はずんずんと歩いていく。

「うう、さむ……」

「明、早く早く!」

「おう……」

 初音に引っ張られながら商店街への道を急ぐ。

 商店街までは歩きで約十分。

 短いようで長い道のりだ。

「しかしお前はほんと元気だな?」

「だって早く明のおでん食べたいんだもん」

 ……ああ、何でこいつはこういうことを真顔でいえるんだ……

 俺はこちらを向くとびきりの笑顔から目を背け、走る。

「行くぞ!」

「あ、急に走らないでよ!」







「おー……」

「いや、なんて都合の良いタイムサービスだよ……」

 俺たちの目の前にあるのは『ちくわ物産』という店。

 最近任務が忙しくてよく見てなかったがこんな店あったっけ?

隣を歩いていたおばあちゃん(キヌさん【68歳】)に話を聞くとどうやらごく最近開店した店らしい。

 でもなぁ……

「おでんセールって何だよ?いや、別に都合がいいんだけどさぁ」

「明?早く行こうよ」

「お、おう」

 中に入るとそこには所狭しとおでんの材料がある。

 ずいぶんピンポイントな品揃えだな…。

 さて、ぐずぐずしてないでさっさと買うか。

 おでんといったらやはり大根。

 それにはんぺん、こんにゃく、じゃがいも。

 玉子は、まだあったな。

「明!ちくわぶあったよ!」

「既製品は駄目だ。作れるもんは自分で作らんと金がいくらあったって足りないからな」

「む〜……」

「睨むな。それより小麦粉は……」

 周りに目をやるがそれらしきものは無い。

 仕方ない、スーパーに寄ってくか。

「明!ほら小麦粉あったよ」

「ん?ああ、こんな近くにあったのか。って……ちくわぶ専用小麦粉……? なんちゅう限定された使い道だ」

「全部買ったんでしょ? 早く行こうよ」

「おう、今行くよ」

 あわてる初音を尻目に俺はゆっくりレジへと向かった。







 家に帰ること約三十分……

 すでにこいつの胃は限界のようだ……

「明ー、まだー?」

「頼むからもうちょっと待ってくれ」

「……早くしてね」

 これで十回目の催促。

 いい加減作らないと暴走しちまうな。

 本当はもっと煮込んでからが美味いんだが仕方ない。

「よし! 良いぞ。五人前は作ったからな、これだけありゃたりんだろ」

「わーい、いただきます!」

 最初の一口はやはりちくわぶ。

 その後は視認できない速度であらゆるものを平らげていく。

 おっと、次の分も入れとかんと無くなっちまう。

「どうだ美味いか?」

 味わって食ってるようには見えないが、一応料理人として聞いておく。

 ま、こいつの答えはわかりきってるのだが……

「うん! おいしーね、明のおでん!」

 俺が聞いたのは、飛び切りの笑顔と一緒に送られる賛辞の言葉。

 この言葉こそが料理人の最高の褒め言葉。

 ほんと、食うだけの奴はわかってないんだろうな。

 無駄に飾り立てられた言葉に意味はない。

 この心からの言葉があるから美味いもんを作ろうと思うなんてことを。







 しかし、おい……

「明ー、おかわり!」

「だぁ!お前は食いすぎだ!」



GTY+にてSS投稿活動をされているアルトさんから頂きました!
この作品はGTYplusに投稿された美味しく料理を食べる理由のB面的作品です。
GTYplusの作品とは違った視点を楽しんでみてください。
なんか、一緒にマフラー掛けてる明くんと初音ちゃんの姿を想像して悶えてしまいました(笑)
さらに食材屋として(練)ちくわ物産も登場したり、キヌさんなど豪華な出演陣ですw
とってもほのぼのとしてキャラクターが可愛く描写されています。

>ほんと、食うだけの奴はわかってないんだろうな。

ここからのセリフに万感の思いが込められています。主夫な明くんの幸せはここにあるんだねw
アルトさん、これからもザ・ハウンドを温かく応援していきましょうっ。


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