ちくわぶさんへ捧げる協奏曲

【絶対可憐チルドレン】
作:烏羽様 

 主な登場人物:宿木明×犬神初音



「…さてと、今日の夕飯は何にするかな」

 学校の帰り道、明は商店街に夕食の買出しにやってきていた。

「今日は寒いから鍋が一番なんだけどなぁ…。
 頻繁にやってるから初音も飽きてきてるし…変わった具材でもあればいいんだけど…」

 ブツブツと、主夫らしい悩みを抱えながら店を覗いていく明。

 そこへ…



「い〜らっしゃいませ〜!
 本日開店!ちくわ専門店、『ちくわ物産』です〜!!
 商店街の皆さん!お買い物中の皆さん!『ちくわ物産』をよろしくお願い致します〜!!!」



 威勢のいい声が聞こえてきた。



「へぇ、新しい店か…ちょっと覗いてみるかな」

 明は、その声が聞こえてくる方へと向かって行った。






「さぁさぁ皆さん!
 今日は新装開店記念と致しまして、1名さまへ特別景品を差し上げます!!」

 明がその店に到着した頃には、既に主婦の山が出来ていた。

「私がこれから出すクイズに答えることが出来た方へ、特別景品を差し上げましょう!!
 皆さん、それでは心の準備はよろしいですか!?それでは問題です!!!」

 店員が叫ぶと、明を含む主婦の方々が息を飲んだ…。



「『ちくわ』と『ちくわぶ』、両者の違いは何でしょう!?」



「「「「「「「………」」」」」」」



 店員の問題に押し黙る主婦たち。

 ちくわの専門店なのでお約束と言えばお約束だが、誰もわかる人が居ないようだ。



「はい、いいッスか?」

 …訂正…主夫の中の主夫、明はわかったようだ。



「おぉっとぉ!?知ってるのかい少年!?」

 妙にハイテンションな店員が明へ言った。



「『ちくわ』は、魚肉のすり身などを竹や棒などに巻き付けて、焼くか蒸すかしたもの。
 『ちくわぶ』は、小麦粉に水と塩を加えて捏ねて、棒などに巻き付けて蒸したもの…だったかな」

 すらすらと、『ちくわ』と『ちくわぶ』の違いを答える明。



「だ…だっいせいかぁ〜い!!!
 おめでとう少年!特別景品は君の物だ!!!」

 叫びながら明へ握手をする店員。

 まわりの主婦からは拍手が送られている。

「あ、ありがとうございます…」

 力任せに振られる手によろめきつつ、明が答える。

「それでは、特別景品…


 『ちくわ&ちくわぶ1年分』は君の物だぁぁぁぁぁ!!」



 ひゅるるるるる〜…



 熱気で溢れていたその場所に、局地的な寒波がやって来たような気がした…。






 〜ちくわぶさんへ捧げる協奏曲〜






「ねぇねぇ明、今日のごはんなぁに?」

 台所で料理中の明に初音が声をかける。

「…今日は『ちくわぶ』と『ちくわ』尽くしだ」

「『ちくわ』?」

「そ、『ちくわ』…お前好きだろ?」

「うん」

「いっぱい手に入ったから、今日は『ちくわ』中心な」

「わかった〜。じゃ、待ってるね」

「あぁ、楽しみにしててくれ」

 明の声を背に、初音はリビングへと戻って行った。



「ほいっ、まずは『ちくわぶ鍋』な」

 ごとり、と土鍋をコタツ板の上に置く明。

 土鍋の中には、ダシで煮込んでクタクタになっている『ちくわぶ』がたくさん入っていた。

「わ〜い!」

「何も無くても食えるけど、一味欲しかったらカラシとか付けろよ」

 取り皿とカラシを置いて台所へ戻っていく明。

 どうやら『ちくわ』の調理が残っているらしい。



「ちっくわっぶ〜ちっくわぶ〜♪もぎゅもぎゅもぎゅもぎゅ…」

 土鍋から『ちくわぶ』を取り皿に数本取り、少し冷まして一気に食べる初音。

「う〜ん、おいしい〜♪」

 舌鼓を打ちつつ、次の『ちくわぶ』へと手を伸ばす初音。



 ひょいっ…もぐもぐ…ひょいっ…もぐもぐ…



 見る見るうちに土鍋の中の『ちくわぶ』の量が3分の1ほど消えていった。



 ひょいっ…



 もう何本目になるのであろうか、初音が新たな『ちくわぶ』を土鍋から持ち上げた瞬間…。



「…お前…ちくわぶを愛していないな!?」



 初音の箸に捕まれた『ちくわぶ』が声を発した。



「………何これ?」

 当然の反応である。

 初音が目の前の『手足が生えて顔が付いているちくわぶ』に向かって言った。

「俺は『ちくわぶの精』。
 職人が丹精を込めて作った『ちくわぶ』を愛していない者へ説教をしにやって来た!!」

 ズギャァン!と、箸に捕まりながらポーズを取る『ちくわぶの精』。

「……なんかしょぼい…」

「やかましぃ!
 貴様、さっきから『ひょいぱくひょいぱく』と!
 『ちくわぶ職人』が丹精込めて作った『ちくわぶ』を味あわずに、ほとんど丸呑みで食べるとはどう言うことだぁ!!」

 じたじたと、『ちくわぶの精』は初音に説教をした。



「……食べ物が…うるさい」

 説教を聞いていた初音が我慢出来ずに言う。

 そして…



 もしっ…ごくん…



「あぁぁぁぁぁ〜〜〜〜れぇぇぇぇぇぇぇ〜〜〜」



 ちょうど、顔と手の中間部分を分断する形で『ちくわぶの精』をかじって飲み込む初音。

 喉を落ちて行く『ちくわぶの精』の声が小さく聞こえた気がした。



「………死んだかな?」

 手足だけになった『ちくわぶの精』を見て呟く初音。

 その手足も少しずつ消えていっている。

 だが…



「…ドッコイ生きてる!タッフな奴ぅ〜っとくらぁ!」



 残った身体(?)のサイズで『ちくわぶの精』は復活した。

「甘いなお嬢ちゃん!『ちくわぶの精』を舐めたらあかんぜ…」



 ばくぅ!もぎゅもぎゅもぎゅ…ごくん!



 台詞を言い切る前に『ちくわぶの精』を噛み砕いて初音は飲み込んだ。



「…まったく…人の食事の邪魔をするから…」

 アレが一体なんだったのかを気にせずに食事を続けようとする初音。

 食事になると他のことは気にならないのであろうか…。



 ぐにっ…



 新たに土鍋から『ちくわぶ』を持ち上げる初音。

 今度のはおかしな物では…



「まだだ!まだ終わらんよ!!!」



 …あったらしい…。



「ふっ!当たらなければどうということは無…」



 がぶぅっ!がつがつがつがつがつ!!ごくんっ!!!



「…………」

 さすがに気味が悪くなったのか、2本目の『ちくわぶの精』を飲み込んで箸を止める初音。



「ん?もう良いのか?」

 そこへ、両手に皿を一枚ずつ持った明がやって来た。

「うん…」

「さすがに『ちくわぶ』だけってのはキツイか…んじゃ、これはどうだ?」

 座りながら、左手に持っていた皿を初音の前に差し出す明。

 その皿の上には…






「コンビニでも売ってる!『チーズちくわ』イエロー!!」

「野菜も一緒に!『きゅうりちくわ』グリーン!!」

「ちょっと大人の味よん♪『明太子ちくわ』ピンク(はぁと)」

「カリカリアツアツ!『青のり揚げちくわ』ブルー!!」

「日本の味だぜ!『梅肉ちくわ』レッド!!」



「「「「「5種類揃って…『食卓戦隊チクワンジャー』!!(どごぉん!)」」」」」



「「「「って、お前『青色』違う!!」」」」

「あうちっ!?」






 何故か『ちくわ』の戦隊ヒーローが漫才をしていた。



「…?初音?
 お〜い、どうした初音〜?」

 明には見えていないのか、皿の上を凝視して止まっている初音に声をかけた。



「………(ぷちっ)…」



 がばっ…ざざざざざざざ…バリバリバリバリ…



 突然初音が皿を高く上げ、皿の上に並んでいた『ちくわ』たちを口に詰め込んで咀嚼し始める。



「お、おい!?」

「(ごくんっ)……ごちそうさまでした…」

 全てを飲み込んで、焦る明へ言う初音。

「ど、どうしたんだよ…」

「…なんでもない…」

「なんでもないって…」

「……出来れば…しばらく『ちくわぶ』と『ちくわ』は食べたくない…」

「…わ、わかった…。
 風呂沸いてるから、入ってこいよ…な?」

「…うん」

 どこか疲れた風な初音を見送る明。

「…どうしたんだあいつ…。
 あっ…残った『ちくわぶ』と『ちくわ』どうしよう…。……皆本さんにお裾分けするか…」

『ちくわぶ鍋』を食べながら明は言う。

「…うん、いい味だ。ダシが染み込んでてうまい」

 もぐもぐと、ゆっくり味わいながら食べる明。

 そんな彼は、『ちくわぶの精』や『ちくわの精』に出会うことは無いのであった。









 〜追記〜



 数日後、皆本家では…



『ちくわぶ』をサイコキネシスで破壊する薫、

『ちくわ』をテレポートで何処かへ飛ばす葵、

『ちくわぶ』と『ちくわ』をサイコメトリーしながら、にこやかに咀嚼する紫穂の姿があったがそれはまた別のお話…。






(了)

烏羽様よりサイト開設記念に頂きました!
烏羽様は私と同じくGTY+にてSSを投稿しています。
絶対可憐チルドレンの『宿木明×犬神初音』カップリングに全ての情熱と妄想を注ぐ御方。
私もあの二人は大好きなので、これからも迷わず爆進してください(笑)
ハイテンションなちくわの精がヒーローショーを繰り広げるという状況はかなり笑えました。
しかし、しょせんは練り物。結局は食われる運命です。奴らの悲鳴が聞こえて……あれ、うわまてやめ(ry
実に楽しい記念SS、本当にありがとうございました!


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