リトル・ボーイズ・アイズ

 また会えるよね……兄ちゃん。
 また会えたその時は……いろんな事を話したいな。
 もっといろんな事を教えて欲しいな。
 あの時もらった竹トンボ、今でも大切に持ってるんだ。
 また会いたいな……




 あの出来事は彼らにとって些細な事件だったかもしれない。
 出会いも別れも、数あるそれのひとつに過ぎなかったかもしれない。
 しかし、幼い化け猫の少年にとってそれは深く胸の中に留まり続けている。

『強い化け猫になって母ちゃんを守ってやれよ……!』

 その言葉だけが、今も変わらず心の中に響き続けていた。




 兄ちゃんは今なにをしてるんだろ。
 ボクはいつも朝起きて母ちゃんの手伝いをして、そのあと森の中を探検して、鳥を捕まえようとして逃げられたりとか、落とし穴を掘ったり木に登って降りられなくなったり。
 でも、魚はうまく捕まえられるようになったんだよ。
 あれから毎日、母ちゃんには内緒で特訓してる。
 強くなって、早く一人前になって母ちゃんを守ってやれるようになるんだ
 そしたら……そんなボクを見たら、兄ちゃんは褒めてくれるかな?
 そうそう、背も伸びたんだ。
 毎日木に印を付けて、計ってる。
 ついでに爪も研ぐ事ができるし、結構ボクって頭いいかもって思ったり。

 こないだ浮遊霊とケンカしたよ。
 すごく怖かったけど、逃げなかった。
 だって逃げたら、兄ちゃんに会わせる顔がないからさ。
 すり傷たくさん作って帰ったら、母ちゃんにひどく怒られたっけ。




 今日も森の中は平和だよ。
 緑の天井が光を受けて、キラキラ光ってる。
 差し込む光の柱が丸く地面を照らしてて。
 その中でポーズを取ってみた。
 兄ちゃんの姿を思い出しながら。
 ――少しは強そうに見えたかな?
 また会えるかな。
 今度会えたときは、たくさん話したいことがあるんだ。
 この空の下のどこかで兄ちゃんは暮らしてるんでしょ?
 いつか会いに行きたいな。
 そしたら、兄ちゃんに恩返しをしたいんだ。
 ボクを見てなんて言ってくれるかな?

 ボクは大きくなったかな?
 ボクは強くなれたかな?
 どうかな――?




 今日も化け猫の少年は竹トンボを飛ばす。
 それはくるくると、透き通るような青い空へ舞い上がる。
 少年の大きな瞳には、日の光に包まれる竹トンボと、遙かなる想いが虹のように輝いていた。