ひも


 先生、どうしてそのコにばかりそんな親しそうにするんでござるか?
 何度も手を繋いだりとか、ぴったりとくっついて――って、距離が近すぎでござるっ!
 ああっ!? そんな、お嬢様みたいに抱っこまで……
 拙者だってめったにしてもらったこと無いのに。
 ちょっと待て、顔が近いでござる顔が。
 見つめ合うなっ二人ともっ!
 先生も「目が綺麗だなぁ」とか言っちゃ駄目でござるっ。

 あ……キスした。

 も……もう限界。
 これ以上は堪えられない。
 先生は拙者の――!

「先生っ、それは当てつけでござるか? よくも拙者の前でそんな!」
「……は?」
「手を繋いだり抱っこしたり、あまつさえキスまで……っ」
「えーと?」
「そんなふしだらな先生は見たくなかったっ!」
「いや、普通するだろ。誰でも」
「しないもん!」
「お前、もしかして妬いてんのか?」
「ッ!?」
「……ばーか」
「ばかは先生でござるっ!」
「普通の犬とお前とじゃ勝負になんかなりゃしねーだろ」
「え?」
「ホラ、そろそろ帰るぞ」

 そう言って先生は抱っこしていた『彼女』を降ろし、ぐいぐい引っ張られながら歩いてく。
 そのコは首輪を付けてて、長く伸びた紐が先生と繋がってる。
 むぅ、やっぱり……なんだかうらやましい。
 先生はスタスタと歩きながら疲れたように言うのでござる。

「はぁ、同時にサンポするとこんな問題が出るとは。わがままな奴だ」
「違うもん」
「美神さんの仕事が終わってこのコを返したら、またお前と二人だけで行ってやるから我慢しろ」

 ちょっと歩幅を縮めて先生の後ろを歩く。
 そうしないとシッポを振っているのがばれてしまうから。
 後で買い物に行かないと。
 拙者も首輪と、そして先生とを繋ぐ――ひもが欲しいでござるよ。